職人技の鰻を宅食で　超高速凍結が叶えるニーズ

株式会社鯉平（さいたま市）は、1897（明治30）年の創業以来「川魚の食文化を連綿と紡ぐ」ことを使命として、鰻や川魚の卸売・加工事業を展開しています。魚を生きたまま運ぶ卸売、職人が手作業で捌いて調理する加工技術が強みです。

鰻をより美味しく食べやすい状態で食卓に届けるため、2024年から超高速凍結機「ZERO-03」を導入。今回は、代表取締役社長の清水亮佑氏に、導入の経緯や今後の目標についてお話を伺いました。

魚問屋の冷凍弁当は「再現性」にこだわる

──事業内容を教えていただけますか。

創業から127年、鰻や川魚の卸売業が主軸です。近年は飲食・小売業界の人手不足が進んでいることから加工やECの需要も堅調で、川上から川下まで事業を広げてきました。日本国内だけでなく、アジアやヨーロッパなどにも輸出を進めています。

日本の伝統的な魚食文化を守り、質の高い商品を提供することが私たちの使命です。関東を中心に、全国で約500店舗のお客様と取引しています。特に鰻の蒲焼きは職人の手焼きにこだわっており、オンラインで年間2万件の注文があります。こちらの鰻は、目利き、サキ、串打ち、焼き、骨抜き、全ての工程が職人の手作業によるものです。

──「ZERO-03」を導入したきっかけは何だったのでしょうか。

きっかけはコロナ禍の外出制限でした。職人が焼いた鰻を自宅で気軽に楽しんでいただくため、冷凍の鰻弁当を販売しようと思ったのです。工場で生産された鰻と職人の手焼きでは、タレの風味や香りが全く違います。それに、チルドや冷凍の蒲焼きは湯煎で温めてからご飯に乗せるため、手間がかかりますよね。鰻弁当が冷凍庫にあれば、電子レンジでそのまま温めて食べることができます。

素材と味にこだわった弁当を作るため、鰻と米の再現性を重視しました。すでに液冷の凍結機を持っており試したのですが、米の凍結がうまくいきません。白蝋化（はくろうか）してしまうのが難点でした。

そんな時、たまたま参加したイベントでゼロカラの凍結機を知りました。デモンストレーションで寿司のシャリが解凍後も品質を保っているのを見て、「これなら弁当もいける」と。凍結スピードが世界トップレベルという点にも魅力を感じ、早速導入しました。

冷凍食品の概念を超えた商品開発で利益率を向上

──「ZERO-03」の導入に際して、ハードルはありましたか。

当然ながら、初期投資や品質の調整は必要です。工場内で鰻を焼くスペースを減らし、弁当をパッキングする場所を増やしました。何度か運転して調整した結果、より良い品質で提供できる稼働時間や投入量などがわかってきました。

現状製造は週1回、50～60個をまとめて凍結する方式としています。粗熱を取った弁当をパッキングして投入し、ボタンを押すだけですので操作も簡単です。注文が増えた場合は、稼働日数を増やすことも考えています。

──導入のメリットを詳しく教えてください。

新たなビジネスチャンスが生まれると思っています。本格的な手焼きの鰻を、いつでも気軽に食べられるようになるのです。自宅に冷凍の鰻弁当がストックしてあれば、猛暑の中食べにいく必要もありません。季節を問わず、食べたい時にレンジで5分。温めてそのまま食べることができます。

私たちが手焼きの鰻に合わせるのは、埼玉県産米の「彩のかがやき」。素材と製法にこだわった高付加価値商品を拡充する狙いもあります。弁当として販売することで、既存の製品と比べて3～4％ほど利益率が高くなります。

大手スーパー、宅食会社から引き合い増

──新たな「鰻弁当」について、顧客からの反応はいかがでしたか。

イベントの度にサンプルを提供するのですが、反応は全て高評価です。実際に温めて食べていただいた後の反応は、「弁当を冷凍できるのか」と驚きつつも味のクオリティーを評価する声がほとんどです。クオリティーに満足いただいた結果、大手スーパーや宅食会社から「ぜひうちでも販売したい」との引き合いを頂きまして、新規の取引につながりそうです。

──冷凍機を活用した今後のビジネスについて、展望を教えてください。

鰻は天然資源であるため、取り過ぎると減少してしまう恐れがあります。しかし、最近では人工養殖技術が進化しており、資源問題が緩和される可能性が出てきました。土用の丑の日に食べられる季節性もありますが、コロナ禍や気候変動を経て、食べ方の選択肢も多様になってきていると感じます。

こうした状況の中で、再現性の高い冷凍食品を展開することで、鰻に新たな付加価値をつけていければと思っています。価格はバイヤーなどの担当者と相談する必要はありますが、シニア層を中心に、高品質の鰻を食べる需要があるはずです。

加えて、少ない工数で高利益の商品を育てることができれば、従業員の労務時間を削減することもできます。鰻の食文化と会社を次代につなぐため、今後もゼロカラの凍結機を活用していきたいと思っています。